斬新な感性Kate Hartmanを観る(永野)

●今年最も斬新な印象を持ったTEDのプレゼンは、Kate Hartmanのものです。カナダのコミュニケーション専門家ということのようですが、壁とのコミュニエーションを取ろうとするツールや、自分の内蔵の音を聴く装置やら、普通の工業デザインの専門家がひっくりかえってしまいそうなものばかりです。
●個人的にもっとも興味を持ったのは、氷河とのコミュニケーションを図ろうとするスーツ、なるものです。そもそも氷河に興味を持ちニューヨークからカナダに移住してしまうエネルギーもすごいと思うのですが、これから十年程度の時間を掛けて氷河について深く考えようということのようです。
●わたくし自身、地球と人間との関係、特に文学や芸術に与えた影響などを自然世界に求める部分があるのですが、そういうややこしい屁理屈ではなくて、直接対話を図ろうとする彼女の生き様に、ただただ頭が下がってしまうのです。氷河との人間の関係を明らかにするなら、直接接してみればいいというのは、人間はともかく、氷河などというものに対しては、なかなか普通のサラリーマンには思いつかないことです。
●このKate Hartman嬢のようなグレイトな人材が世界に登場している様を、このように臨場感をもって眺めることができるというのは、現代に生きている妙味で、TEDの人材選出の視点にはいつも頭がさがります。やはり今後世界を動かしていくのは、TEDのような気取らない非営利活動なのかもしれません。

15歳の少年ジャック・アンドレイカを受け入れる社会(久里田)

●15歳の少年(Jack Andraka)がすい臓がんの試験紙の開発に成功というニュースはどこかで読んだ気がするが、TEDカンファレンスでお目にかかるとは思わなかった。三連休の最終日にたまたまプレゼンを見たが、なかなかのものである。
●なかなかというのは、少年のことではない(この少年に対しては文句なくすごいというべきである)。この少年の思いついた試験の方法を受け入れたジョン・ホプキンス大学の研究者の方である。ただでさえ保守的な医学界で、たまたま思いついたからといって、その可能性を見抜き、試験紙の研究のために施設を開放するなどということは、並の大学関係者には不可能である。特に日々目にする日本の大学関係者などはまさしくそうで、人のことどころか自分のことだけで精一杯で、少年自身を含めて外部の素人のたわごとといった扱いをするに違いない。
●もちろん米国といえどもこういうケースはまれだろう。なにせ15歳の少年のことである。実際プレゼンによれば200通のメールをこの少年が出したところ、返信があったのは先に述べた研究者一名のみだったらしい。99%の研究者は少年の提案を却下したわけで、よく見る保守的で頭の固いアカデミズムの皆様といったところだろう。しかし、それでも200分の1の可能性でこの少年の話を真面目に聞こうとする人がいるという国はやはり、さすがアメリカ合衆国といえるだろう。やはり日本ではありえないと思うばかりである。
●しかし、なぜ日本ではこうした特異なサクセス・ストーリーが成立しないのだろうかと真面目に考えてしまう。人口ではアメリカの半分もの規模があるから、一つぐらい出てきてもおかしくない。ベンチャーの出現率も同様だが、社会全体に意味不明な膠着感があるのかもしれない。単に法的な制度や仕組みの問題だともいえないだろう。個々人のエネルギーと社会全体の柔軟性の問題ではないかとよく考える。万能でなく、一点豪華主義でも構わないので、社会全体で特異な才能を見いだせるような文化が日本にも根付いてくれないものかと、今回も深く考えてしまった。

コリン・パウエルを観る(永野)

●シャットダウン騒ぎで手持無沙汰な私は朝早く起きてTEDを視聴しました。今日見たのはコリン・パウウェルのプレゼンテーションでした。タイトルは”子供たちには良い環境を与えよう”というようなものですが、結果からいうともっと別な部分に大変感心いたしました。
●パウエル氏のことを政府の役職でしか知らなかった私には、彼のプレゼンテーションに出てくる、ジャマイカ移民の二世であるということや、ニューヨーク市立大学で万年C評価だったために追い出されるように軍隊に入った事情などは、もちろん初耳でした。有色人種だからという理由で立身出世にはおのずと限界があると、島国日本に住んでいる人々が勝手にアメリカ社会に偏見を持っていた時代に、特別成績が良いわけでもないパウウェル青年が軍隊で出世を重ねていく様は、聞いている私にも大いなる自信を与えるものでした。
●今回のプレゼンテーションの中には、もう一つ印象的な話がありました。ホットドッグの好きなパウウェル氏はニューヨーク55丁目の屋台をよく訪ねるという部分です。国務長官を退任してからしばらくたったある日、例の如くホットドッグを買いに店に出かけると、店主が”どこかで見たことのある顔だな~。あ、そうだパウウェルだろ、テレビで見たことあるよ・・・”といったとのこと。パウウェルはホットドッグを貰い、所定の代金を払おうとすると、店主は次のようにこたえたとのことです。”お代はアメリカ合衆国からもらってる。だからいらないよ”と・・・。ホットドッグ売りに多いマイノリティのすべてがこのような答えを返すのかどうかはわかりませんが、少なくとも、このような素敵な答えを返す移民は、日本だけでなく世界には存在しないような気がします。心動かされる言葉でした。
●とかく軍隊出身ということで、堅苦しい内容になるような予感が満ち満ちていたのですが、実際は古き良きアメリカというものを見事に語るジャマイカ移民二世の姿があり、誠に感銘をうける内容でありました。