第二の冷戦はじまる(永野)

●深く考えると世の中は何一つ否定できない。かといって全面的に肯定も出来ない。だから人は絶対を求めるのかもしれない。大衆は自由を求めてきたといいつつ、懐疑し続ける苦痛には耐えられないものであるからだ。
●ロシアという国がある。大国である。現在でもサンクトペテルブルクからウラジオストックまでいこうとすると大変だ。大陸を横断するようなものだ。広大であるのに加えて自然は峻厳だから、生半可な人生観では生きられない。絶対的な力で巨大な橇を引く力強さがそこでは求められる。現在のプーチンの支持率が70%もある理由は、政治や経済の問題を超えたそのような部分にあると思う。
●一方でローマ帝国という巨大な帝国が歴史上には存在した。この国はオクタヴィアヌズの治世から帝政を布いていたが、結局のところ共和政の香りが最後まで抜けなかった。絶対的な皇帝がえてして犯す過ちを、機敏に牽制する仕組みを最後まで持ち続けた。これは現在の欧米の政治・経済システムの根幹にある伝統だろう。現在のクリミアをめぐる欧米とロシアの間には、そんな風土と歴史の溝があるような気がする。
●今回のプーチンのクリミア併合を欧米はヒトラーのズデーデン併合になぞらえる。表面的な現象からすれば確かに同じである。だが一方でヒトラーを生み出した、第一次世界大戦の賠償金問題の原因を自分たちが作ってしまったことは忘れている。英米式に裁判でああでもないこうでもないと、きれいに整理できるとしても、散々議論を尽くした後に残ったのは、ドイツ側の負の感情だけだった。下手な議論をこねくり回して、たった一斤のパンも用意できない政治家が国会でつばを飛ばすワイマール体制をつくり、のほほんとしていた。それが当時の悲劇の根幹にあると私は考えている・・・。
●今回の核心もクリミア問題だと思ってはいけないだろう。国際法や国連決議など、ある意味便宜的な取り決めの話である。欧米的な観点では理路整然としているだろうが、ロシアからすると偽善や詭弁とうつる。今回の背景には、ウクライナとロシアの経済的な苦境があるから、屁理屈をこねて、悠々と選挙などしているとどこかで国家破綻が起きる。暴虐といわれようが自分の持っている利権を死守するとプーチンが考えても不思議はない。
●実際問題、EUもIMFも巨額の債権の肩代わりを何の担保もなく出来るわけがない。再生プログラムから出てくるのは、大増税策しかない。国内を二分・三分する議論になるのは目に見えているから、現実的には一時的に民主主義的な体制を停止してでも、ワンマン体制を作るほかないはずだ。そんな結末をロシアは見透かしているるような気がする。
●欧米型思考回路ではプーチンは間違いである。だが現実的に考えると、原理原則論にこだわってばかりいる、共和政連合国家の悪しき伝統を継承している欧米側こそがナンセンスなのかもしれない。だからロシア人は70%もの比率でプーチンを支持する。要するに議論好きなお公家様と、現実を優先する将軍閣下の対立なのだ。答えが簡単に出るはずがない。
●今後ウクラナイナでは大統領選挙がある。誰が大統領になっても借金問題にけりがつけられるとは思わない。心情的に、西側はボランティアのようにウクライナを助けてくれるだろうとの期待がウクライナにはある。だから大増税を承認しろと西側が出してきたところで、議会も大統領も数回の体制入れ替えを求められるだろう。下手をすると、やっぱりガスを安く売ってくれるプーチンのほうがよかったと思う人も出てくる。最悪デフォルトの可能性がある。
●他方のロシアも無傷ではいられない。良くも悪くも世界経済に組み込まれてしまったロシアが、以前のように超然と貧困に耐えていくとは思えない。企業の破綻や、貧困問題に苦しむだろう。下手をすると、もう一度革命まがいの体制転覆の可能性もある。そんな事情もあるから、欧米ももロシアもこれ以上は何もしないだろうと私は考えている。時間を稼いで、同時にリスクが高まる事態を回避する以外にはないと思うからだ。要するに第二の冷戦は当面長引くだろうと、私は考えている。

ウクライナとロシア問題を眺める(ゲオルク)

●今回のロシアのクリミア編入は欧州では結構な事件でした。ヒトラーのチェコ併合、ブレジネフ政権時代のハンガリー動乱のような事件は二度と欧州では起きないという認識が、現代のヨーロッパにあったからです。これは当のロシア人の中にもあるようで、多くの友人たちから驚きの言葉を聞きました。
●日本にいるとわからない部分があると思いますが、人種と国家の問題をきれいに仕切りなおせる国家は欧州にはありません。ウクライナでロシア系といわれる人々が登場しますが、実はロシア人の中には数多くのウクライナ系と呼ばれる人がいます、またバルト三国などを旅行していればわかることですが、エストニアなどは普通にロシア語が話されているぐらいです。この難しい人種と国家の問題を、強引に整理しなおそうという試み自体がまさにナンセンスの一語に尽きるのです。
●今回の一連の事件でまず何を分析すべきなのかと、冷静に考えてみる必要があります。兎角ロシアの暴虐的行為ばかりが目立ちますが、実は最初の段階で引き金を引いたのがウクライナであることを忘れてはいけません。前政権が失政を行ったのは事実かもしれませんが、クーデターのような出来事で暫定政権が成立したという事情が重要です。あくまで総選挙までの暫定政権であるのに、突然第二公用語であるロシア語を廃止すると言い出したりと、極めて大きな政治決断を行いました。このことがウクライナに大きな経済的な利益を得ているロシアを刺激したのは間違いありません。
●従ってロシアからは、最初に喧嘩を売ってきたのが正統でないウクライナ暫定政権ではないかと写ったはずです。また若干欧州側が簡単にEUやNATOへの加入などをにおわせてしまったという事情もあるので、話は混迷を極めていくわけです。従ってプーチンの演説にあるように、欧州側が超えてはいけない一線を超えたのがきっかけだ、という表現になってくるわけです。
●今回の事態は最終的にどうすべきなのかという道筋は非常に見えにくくなりました。欧州とロシアの深い関係を考えるとこれ以上のロシアの軍事的挑戦はないでしょうが、ウクライナの国家破綻懸念はさらに現実的な問題になっています。ギリシア問題などで疲弊した欧州に、ウクライナを現在のままでEUに加盟させるはずもなく、ぎりぎりの支援枠を提示するのみでしょう。クリミアの問題はさておき、国家財政破綻を回避するために、まずは如何にIMFなどと再建策を具体化できるかに尽きるのかもしれません。
●決してロシアを弁護するつもりはありませんが、経済的に破綻寸前の国家体制の中にあって、ロシア人嫌いを振りかざして、理念的なことばかり並び立てる暫定政権側にも大いに問題があるのも事実でしょう。根幹にある経済問題を解決しなければ、あれこれ表面に見えている問題だけを修正しようとしても、何も進まないような気がします。