モード・ルイスのこと(浦崎)

●コロナ禍のおかげで今年はかなりの時間、窓から外の木立を眺めている。自宅軟禁のようで当初苛々が募ったが、慣れてしまうとむしろ外界の四季の移り変わりを愉しむようになった。旅になど出る必要はない。珈琲を飲みながら景色を味わい、同じように窓ガラス越しに世界を眺めていた一人の女性画家のことを考えた。

●カナダの画家にモード・ルイスという女性がいる。透明で暖かい絵を描く人だ。彼女はリューマチを患い、終生故郷のノバスコシア州から出ることなく、一軒の小さな家で窓外の光景を作品にし続けた。当初ポストカード作品で25セント、廃材を使った小さな油絵で5ドル程度だった彼女の作品は、現在のオークションで少なくとも4万ドルで取引されている。彼女が窓から眺める作品世界が如何に人々に何かを与えたかを示す証左といえるだろう。

●殆どの人間は教育を受ける。基礎とか上級とかいろいろな名前がついているものに大層なコストをかけて何かを学んだ気になる。しかし後々考えてみると、常識的な何かを身に着けてしまうことが寧ろ制約になって、大多数がオリジナリティを喪失してしまう。ほんの一握りの人々だけしか、そこから抜け出す脚力を持つことができない・・・。蜘蛛が自分の口から出す糸に絡まって身動きできなくなるようなものだ。

●その点モード・ルイスは違う。美術に限らず教育らしい教育は受けていない。何か規範をすりこまれたことがないまま、自分が窓辺で見て感じた世界を描いている。幼少期の特別で神的な時間が、この人の場合永遠に心を満たし、絵筆を握らせていたようにも思えてくる・・・。物まねから脱却できない人々とは違う、モードらしさがそこにはある。

●今月上旬、今年のカナダポストのクリスマス切手に、彼女の作品が採用されることが決まったということだ。彼女が亡くなって既に50年の歳月が流れて今更という気もするが、今やカナダの国民的作家となった彼女の作品が年末に世界を旅する風景をふと考えて、自分も不思議にうれしい気持ちになった。

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